ランナーの胃腸トラブル対策:FODMAPを一時的に減らすメリットとは?
- Kazuma Sahara
- 3月15日
- 読了時間: 5分
マラソンなどの長時間のランニングで「お腹の不調」を感じたことはありませんか?
実は、ランナーの約30~50%が何らかの胃腸トラブルを経験すると言われています(1,2)。
「レース当日にお腹の調子が悪くなる…」
そんな悩みを解決する1つのアプローチとして「FODMAPを一時的に減らす」方法があります。
1. FODMAPとは?
ランニングシーンで苦しめらることが多い腹痛。これは血流の多くが筋肉に優先的に送られるため、胃腸への血流が制限されることが理由です。その他の要因として挙げられているのが、このFODMAPによる作用になります。
FODMAP(フォドマップ)とは?
発酵性(Fermentable)のオリゴ糖(Oligosaccharide,)、二糖類(Disaccharide)、単糖類(Monosaccharide)と(And)ポリオール(Polyols)の総称で、それぞれの頭文字を取ってFODMAPと呼んでいます。これらは腸内で発酵しやすく、ガスや水分を引き込んでしまうことで胃腸トラブルを引き起こす一因となります。FODMAPの具体的な成分として以下が挙げられます。
オリゴ糖:フルクタン(イヌリン、フラクトオリゴ糖など)、ガラクトオリゴ糖
二糖類:乳糖
単糖類:果糖
ポリオール(糖アルコール):ソルビトール、マンニトール
FODMAPを多く含む食品の例
小麦製品(パン、パスタ)
乳製品(牛乳、ヨーグルト)
フルーツ(リンゴ、蜂蜜)
2.短期間の低FODMAP食で症状が改善
Dana Lis らは2018年、11名の市民ランナーを対象にFODMAPを少なくした食事を計6日間取ってもらう研究を実施しました(3)。
対象者の特徴
男性5名、女性6名の計11名
年齢は18〜50歳(41 ± 10歳)
身長:171.1 ± 10.0cm
体重:69.0 ± 12.0kg
1週間の走行距離:25km以上(月間100km以上相当)
日常的に運動による胃腸症状(吐き気、腹部膨満感、下痢など)を持つもの
5kmの自己ベスト:23分00秒 ± 04分02秒
食事内容
高FODMAP食または低FODOMAP食のいずれかを6日間摂取
1日の休息期間を挟んでもう一方の食事を摂取
それぞれのメニュー例
食事 | 低FODMAP食 | 高FODMAP食 |
朝食 | 低FODMAPミューズリー¹ | 乾燥フルーツとナッツ入りミューズリー |
乳糖フリー牛乳 | 牛乳 | |
ブルーベリー | りんご | |
コーヒー/紅茶(乳糖フリー牛乳入り) | コーヒー/紅茶(牛乳入り) | |
間食 | コーンクラッカー | ライ麦クラッカー |
乳糖フリー ヨーグルト | ヨーグルト | |
ぶどう | ネクタリン | |
昼食 | キヌアとお米のパスタ メープルグレーズドサーモンのせ | デュラム小麦パスタ ハニーグレーズドサーモンのせ |
間食 | グルテンフリービスケット | 小麦ビスケット |
チェダーチーズ | チェダーチーズ | |
トマト、きゅうり | スナップエンドウ、きゅうり | |
夕食 | グリルチキンと野菜のキヌア添え⁴ | グリルチキンと野菜のクスクス添え⁵ |
間食 | 乳糖フリー ヨーグルト | ヨーグルト |
いちご | カンタロープ(マスクメロンの一種) | |
コーヒー/紅茶(乳糖フリー牛乳入り) | コーヒー/紅茶(牛乳入り) |
低FODMAPミューズリーの材料: ライスクリスピー、コーンフレーク、キヌアフレーク、ココナッツシュレッド、パンプキンシード。
低FODMAPパスタの材料: ミニトマト、ナス、ガーリック風味オイル、松の実、バジル、パセリ。
高FODMAPパスタの材料: カリフラワー、アスパラガス、ピスタチオ、バジル、パセリ、ガーリック。
低FODMAP野菜の内容: 少量のさつまいも、赤ピーマン、ほうれん草。
高FODMAP野菜の内容: 大きめのさつまいも、ビーツ、ガーリック、赤玉ねぎ。
ランニングの内容
1,2日目は軽〜中強度のトレーニング
3日目は休息またはランニング以外の軽い運動(ヨガや水泳)
4,5日目は高強度のランニング
4日目は100%VO2maxのペースで1,000m×5本(休息は3分間ジョグ)
5日目は〜90%VO2max相当のLTペースで7kmペース走
6日目は自己選択による運動または休息
結果
高FODMAP食よりも低FODMAP食の方が、摂取期間中の胃腸症状のスコアが小さかった(44.6±33.6 vs 31.4±24.6)
高FODMAP食と低FODMAP食の間で、ランニング時の下痢を除いた胃腸症状(腹痛や鼓腸など)の変化はなかった
このように、運動による胃腸症状を持つランナーが低FODMAP食を取ることで、日常での胃腸症状を軽減できることが示されました。合宿などの激しい運動が数日間続く際にはより有効な食事になる可能性も考えられています。
低FODMAP食において運動中の症状に有意な差はありませんでした。より長い時間またはより高い強度の運動の場合(例.数時間の長距離ランニング)はより差が生まれる可能性があると考えられています。
3. 実践編:低FODMAP食プラン
運動中の胃腸トラブルが気になる方のために、FODMAP減らすためのをおすすめの食品をいくつかご紹介します。
低FODMAPのためのおすすめの食品(4)
【過剰摂取に注意】
パン、パスタ(小麦系)
ヨーグルト、牛乳
りんご、桃
【推奨】
白米、玄米(少量)、スペルト小麦
乳糖フリーの乳製品、豆乳
バナナ、オレンジ、ブルーベリー、キウイフルーツ
鶏肉、魚
4. 胃腸トラブル対策は他にも
ランニング中にお腹を壊さないための対策として以下のことが言えます。
「FODMAPを減らすのは効果があるが、日常的には健全な腸内環境のためにバランスが必要」
「レース直前1週間前〜3日前に取り入れるのがおすすめ」
その他のマラソンのレース直前の対策について詳しく知りたい方は、先日のセミナーのアーカイブでより詳しく解説しています!
参考文献
de Oliveira EP et al., 2014
Gibson PR et al., 2013
Dana Lis et al., 2018
Dana Lis et al., 2019
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